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価値創造の問題解決
イノベーションを生み出す思考と行動の技法

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第1回 最適解から価値創造へ


問題解決に求められるパラダイム変換

ビジネスや経営に関する課題を、科学的に解決するという志向がコンサルティングの業容拡大と同時に日本に広がっていった。科学的に解決するための基本メソッドは、4Pやファイブ・フォース等に代表されるフレームワークと、MECEやロジックツリー等に代表される要素分解型の論理テクニックが中心である。

 

たとえば、雑誌のマーケティング戦略を考えてみるとしよう。まず、3C(Customer/Competitor/Company)のフレームワークを使って、現在の読者ニーズや市場サイズを探り、競合誌と自誌の比較を行う。それから、SWOT分析(Strength・Weakness・Opportunity・Threat)から自らの強み・弱み、事業の機会・脅威を見つけ出す。さらに、4P(Product・Price・Place・Promotion)で商品ポジションと最適な価格、読者を効果的につかまえるチャネルを把握し、そこでプロモーション案をリストにして分析的に絞り込む。これらをフレームワークを駆使しながら、論理的に考えていくと、最も部数を高められるマーケティング戦略が見えてくる(もちろん、使い方次第であるが・・・・・・)とされる。

 

フレームワークは、複雑な事象を定石とされる視点で切り取り、扱いやすくする。要素分解型の論理テクニックは、情報が十分にない状況での意思決定が必要なときには、より確率の高い判断をする手法として拡大した。この流れは、かつて勘や経験が中心であったビジネス課題解決も、フレームワーク、論理テクニックをマスターできれば、外部の人間でも解決策を提供できるという風潮を生み、雄弁なビジネスエリート像を生み出した。同時に、コンサルタント=ビジネスの解を生み出すプロフェッショナル、というステレオタイプなイメージも広がった。

 

しかしその後、企業はコンサルタントの出した解の「異物感」に気づきだした。フレームワークで切り取った課題は、どうも自分たちの会社の実情を反映していない気がする。しかも、外部者の目での調査と分析で出した解決策は実行のイメージが湧かない。そうかといって、明確に反証もできず、実行されずにお蔵入りする報告書が積み上がっていく。

 

この問題の原因は「外部の人間が実態をあまり理解していない」や「当事者が出した解でないと実行されないため」と考えられ、「問題解決本」ブーム、社内での問題解決手法教育、アクションラーニング等、自社社員に問題解決の技法を身に付けさせ、組織内部の問題解決力を高めようという流れが広がっていった。

 

しかし、筆者は前述した「異物感」は外部の人間がつくった解決策だから生じるというわけではないと考えている。むしろ、本質的な原因は、企業に求められる問題解決の質が、変化が少なく、考える範囲を限定しやすい問題について最適解を追求することから、考慮すべき変数が多く、かつ変化が激しい条件下で無から有を生み出す創造的な解(創造解)の追求に変化してきたことにあると考える。(図表1)

 

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たとえば冒頭の雑誌のマーケティング戦略のケースの現実はどうなっているだろうか。顧客はスマートフォンを持ち、知りたいコンテンツへタッチ一つで動いていく。スマートフォンの画面上に現れる映像・音楽・ゲーム・SNS・速報ニュースなど、およそすべてが読者時間を争う競合となる。さらに、時々刻々とプレーヤーが入れ替わる。注目を集める話題やブームは一瞬で盛り上がり、一瞬で消え去る。こういった世界では、雑誌という概念すら希薄になっていく。こういった環境では、フレームワークや論理テクニックを用いて、最適解を探り当てることはもはや適切ではない。

 

多変数・多変化の条件下で、SWOT分析や4Pなどフレームワークを通じて課題を切り取り、ロジックツリーで論理的に考え、実行計画を立てるようなフレームワーク・論理型の問題解決(図表2の上部)では、独創的な解は見えてこない。そもそも強みも弱みも比較する相手が動くし、機会や脅威も表裏一体で時々刻々と変わる。ある時点で完璧なロジックも前提条件が変われば即座に役に立たなくなる(なお、フレームワークや論理テクニックを否定しているわけではない。それらを使いこなせること、その限界を知っておくことは、本連載で紹介していく新しい思考法や行動技法を身に付けるベースとなる)。こうした状況下で必要となるのは、創造型の問題解決(図表2の下部)である(詳細は後述)。

 

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ビジネスの世界の変化が激しくなっていることに加えて、事業や組織とは、意思を持った個々の人の連鎖で構成されている「複雑系」の側面を持つことに注目してほしい。複雑系であるため、予測やコントロールは難しい。以前は企業の価値創造のエンジンが生産プロセスや設備・システムであったが、現在は人の創造やそれを行う動機といったものにシフトし、予測やコントロールの難しさに拍車がかかっている。

 

組織も、実現手順やシステムに基づき、人を動かすというシンプルものから、戦略やその実行を生み出す人自身がシステム自体に組み込まれて有機的に動く複雑なものとして捉え直す必要がある。外部の人間の論理にのみによって組み立てられた戦略や解決策には、「実行者個人の意思や認識」の変動要素が含まれていることはまれである。これが前述の「異物感」をつくり出す。

 

現実の世界は「複数の人間(個)が変化の媒介となって継続的に世界の構造を再構築している」と考える必要がある。この状況においては、人間の心理に働きかけ、かつ、動的で実践的な問題解決型スキルが求められてくる。図表3は、ビジネスに必要となるスキル体系を筆者なりに4つの分野に整理してみたものである。ビジネススキルは、創造学・実践学・論理学・心理学の交錯点にある。構想を科学的に立証し、ビジョンにより、人を動かし、交渉や調整により前進させる。こういった総合的な解決力を付けていくことが求められている。

 

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創造型の問題解決に必要な能力

創造的な解は往々にして、偶然の情報との出会いから意味を見いだすことや、現象の奥にある隠れた構造を見つけ出すことにより生み出される。複雑化する環境下でこれを実現するカギは、問題解決者と現実の境界線を限りなくなくすことであると考える。問題解決者は、知のネットワークや変化する事業環境のなかに浸り、観察と思考と実験をリアルタイムに繰り返していくような動きが必要になる。

 

これまでのビジネスの問題解決手法の問題点は、本当は複雑なビジネスの世界を、フレームにより切り取り、論理により過度にシンプル化して捉えてきたことにある。これは、問題解決者と現実の分離をもたらす。冒頭の雑誌のマーケティング戦略を論理・分析的に組み立てるアプローチは、問題解決者はフレームで切り取ったモデルを通じて、自らを現実から切り離し、問題解決に取り組もうとしている。変化や参入者が少ない業界で、かつ問題解決者が強い立場にいるのであれば、論理でつくられた解を現実解に移し替えることはできるかもしれない。

 

しかし、スマートフォンのコンテンツと読書時間をめぐって競争する雑誌を取り巻く現在の環境は複雑で変化が速すぎるため、そもそもモデル化は難しい。このような環境下では雑誌のマーケッターは、世界の無名ブロガーも含めたあらゆるトレンド発信者につながり、コンテンツ、e-ビジネス、スマートデバイス等あらゆる分野のトップランナーと議論を続け、新しい編集の切り口をどんどん発信していく動きをすることが求められる。問題解決者は変化の真っただ中に自ら浸り、多様な知へリアルタイムにアクセスし、協力者との対話から新しい知を創造し、それをすぐに実験に移すような、行動型の問題解決が求められる。

 

もう少し要素分解すると、創造型の課題解決には行動と思考を一体にする3つの能力が必要となる。1つ目は、「知にアクセスする力」である。知識がネットワーク化され進化していく環境では、多様な知にアクセスし、生きた知恵を問題解決に取り込んでいけるかがカギとなる。情報がコモディティ化するスピードが速まっているなか、多様な個が持つ暗黙知・ゼロ次情報(2次情報はテキスト化された情報、1次情報は情報発信者本人の言葉とすると、ゼロ次情報とは情報発信者本人もうまく説明できず、暗黙的にしか認識していない隠された情報のことを指す。聞き出す人間の質問力や観察力によって引き出されるもの)にアクセスし活用していく力が問題解決の質を左右し、観察力や対話力といったソフトスキルの重要性が増している。

 

2つ目は、「知的リーダーシップ」である。市場が目標を与えてくれない世界に急速にシフトしている。かつての量的な競争(たとえば、シェア競争)やロードマップ型の技術開発のように、追うべきターゲットが明確であった時代は終わり、過去のトレンドや定石の追従は成長の解とはならない時代がやってきている。新しい価値創造には、観察力・洞察力を駆使して自らが解決すべき問題を見つけ出し、周りを巻き込み実行に導く力、つまり「知的リーダーシップ」と呼ぶべきものが求められる。雑多な情報から、意味や法則を見つけ出して解決する価値のある目標を自発的に見出し発信する力や、あらゆる利害を持つ人を束ねて1つの創造に向かわせるような、リーダーシップとそれを支えるインタラクティブな思考力が重要となる。

 

3つ目は、「行動主義・実験主義への変換」である。変化が激しい環境では、計画を実行したときには、計画がすでに陳腐化しているという事態も起こる。過去の戦略論の常識は通じない。未来をつくるのは戦略や計画ではなく、行動と実験を繰り返す試行錯誤によるパスファインディング力(道なき道を見つける力)になってきている。問題解決も机上のセオリー学習を超えて、リアルタイムでインタラクティブな対応をするための能力がカギとなっている。

 

課題を外側から静的に分析・評価するスタンスから、自ら課題の内部にインサイダーとして浸かり、広い知にアクセスしながら、解決目標を見い出し、即時に実験・実証を繰り返していくスタンスへの変換が求められている。必要とされるのは、観察・気付き・洞察・デザインといった暗黙的な知をコントロールする実践力である。

 

知にアクセスする力―――周辺知や体験知を引き出す

企業のなかには、多くの創造の種が眠っている。それは、企業活動を行っている人の頭のなかにある。なぜそれは引き出されて価値に変わらないのか。彼らは知っているが気づいてはいない、気づいていたとしても、それを説明し形にする理由と技術がない。それだけの理由で膨大な価値創造の機会が奪われている。

 

筆者が実践する事業創出のプロジェクトでは、まずプロジェクトチームに社内や顧客の人材の頭のなかにある知へのアクセスを実践してもらう。ある産業機器系のメーカーのケースでは、長く「新しい事業の種がない」という悩みの下、約15人の新事業検討チームを設置した。まず彼らには、「とにかく1週間、社内外の身近な人でいいので、できるだけたくさんの人と会い、日頃考えている疑問、関心、自分の持つ技術、自分の仕事や顧客についてもっとよくできると思うことについて、雑談をしてきてください」というミッションを与えた。1週間後、メンバーが集めてきた膨大な対話キーワードを整理していくと、なんと80以上の新事業・新技術のアイディアが浮かび上がった。
多くの人は日々のなかで出会った仕事の目的に関係のない情報の多くを無意識に切り捨てている。顧客が何気なく言った悩みや、同僚との雑談で出たアイディアは、論理的でなかったり、既存のやり方に沿わないものであった瞬間に、単なる戯言として処理される。これらは、「周辺知」としてその人の頭のなかに日の目を見ぬまま漂っている。彼らに「アイディアを出せ」といっても、それらが戯言と認識されている限り「ない」と答える。彼らの持つ知からアイディアを掘り起こすにはこれらの周辺知を引き出し、整理し、融合させ、普遍的な価値のエッセンスを抽出する技法が必要となる。

 

この技法は、「視点観察型のインタビュー」と名付けるインデプスインタビューの手法で、これまで主流の仮説立証型や事実確認型のインタビューとは異なるものである。聞かれる側も意識していない周辺知や、説明できない体験知やイメージを、問いを通じて抽出し、聞き手は話し手の世界観を観察するようなインタビューになる。これらの周辺知の引き出しの技法を「暗黙知を取り出す技法」として連載第2回以降でくわしく解説する予定である。

 

知的リーダーシップ―――インタラクティブに創造をリード

先の対話型のインタビューによって集められた情報は、キーワードだったり、具体例や概念だったりと、多くは一貫性のない断片的な情報であることが多い。こういった情報の洪水の中から、事業や顧客にとって価値のあるコンセプトを取り出していけるかが鍵となる。
以下は、そういった雑多な情報の組合せと探求・洞察のなかで新しい知をつくりだす技能である。

 

  1. 構造化・モデル化思考
    現象の背景に潜在する普遍的なメカニズムや因果関係を探り出す。
  2. コンセプト思考
    新しい観点で現実や未来を切り取る。切り取られた範囲にある構成要素とその関連構造を効果的・効率的に表現する。
  3. 弁証法思考(対立項のアウフヘーベン)
    対立・矛盾する事象を統合的に解決する高次の概念を見いだしていく。
  4. 仮説思考
    解を仮決めし、それと現実との対比の中で真のモデルを描き出していく。
  5. ストーリー化・構想化
    説明が困難な概念や構造を他者に共感・理解させ、協創的な関係をつくり、思考を発展させる。

 

これらの思考法に共通するのは、情報の統合化や抽象化である。イノベーション系のプロジェクトで最も苦労するのは、集められたメンバーがこういった統合化・抽象化思考に慣れておらず、集められた非定型で膨大な情報に溺れて思考停止してしまうことである。企業での知識創造は、人についた知恵を引き出して新しい知を生み出すことであり、そのためには、討議やブレーンストーミング等において、先の思考法をリアルタイムに操り、多くの参加者の知見を引き出したり組合せたりして、知を生み出す能力が必要とされる。

 

この習得には、対話のプロセスや環境作りといった一般的なファシリテーションができるだけでは十分でなく、知識の深化や組合せを見いだす創造に主体的にかかわっていくという姿勢と、経験を通じた先の思考法の研鑽が求められる。同時に、問題解決者と被問題解決者の関係に分かれた一方通行型のソリューション提供にならぬよう、課題に関係している参加者を自ら知恵を出す主体者として巻き込み続ける、インタラクティブな問題解決力が求められる。

 

机上での思考を超えて、このような人を巻き込んだ実践的でインタラクティブな創造思考のリードをいかに行っていくかの技法について、第2回以降の連載でより詳細に説明していく。技法は単なる技術的思考法だけでなく、感情や利害といった人間心理にかかわる部分にも触れ、いかに関わる人間を創造活動への主体的な貢献者として巻き込んでいくかという点についても、これまでの経験を踏まえて考察していきたい。

 

実験・行動主義への変換

企業の創造活動には、現実主義・リスク回避論との戦いが必ずつきまとう。元来、企業のシステムとは「実証されたものをいかに最小のリスクで拡大再生産していくか」を目的として設計されているものであり、「リスクが伴う未実証なものをつくり、実行する」価値創造は、エスタブリッシュな企業であればあるほど体質的に受け付けない。

 

創造を実現に導き価値を実証するまでに起こる戦いを切り抜けていくカギは、「実物化・実験・行動」を小さく素早く回していくことである。実態や実績のないものを多くの人は評価しない。実態のないアイディアに人の関心やリソースを集めるためには、アイディアを見える形にすると同時に、成果・実績を「プロモート」していく動き方が必要となる。

 

試作品やグラフィック、簡単なシミュレーション等を駆使してアイディア実現時のイメージを体感できる形をつくり出し、顧客や社内関係者にアイディアを体感してもらうことが必要となる。「事業プラン」の代わりに、これからはこの「プロトタイプ化」が事業起案のスタートとなる。事業プランが計画主義に基づくものならば、プロトタイプ化は行動主義に基づくものである(図表4)。

 

3Dプリンターやグラフィック・シミュレーションツール等がより扱いやすくなっていくなかで、それらが企業内でのプレゼンや討議のなかで自然に使われてくる流れが出てくると考えている。ある化学素材メーカーの住宅設備向け新製品創出のプロジェクトでは、革新的な素材技術を、最終製品イメージとして社内外に知らせ、開発への求心力を得るために、会社の工場の一角に家を一軒丸ごと再現した。そのなかであらゆる新製品の試作開発と展示を行い、素材技術が生活で使われる形として表現した。その結果、社内外から製品化を望む声や改良のアイディアが寄せられ、製品化へのスピードが加速した。同時に、開発者自身も最終製品化の過程への手触りを得て、実現上の課題やさらなる技術的なニーズを見いだすことにも大きく貢献した。

 

このケースが示すように、ハリボテでもいいので、まずアイディアを形にすること、またそれを可能とする実験の場をつくり、社内外の知を集めていくことで形のないアイディアが実現に向けて動き始める。

 

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価値を生み出すには、机上での空想ワークから、実物化・実験・行動という泥臭くリアルな仕事に思い切って振り切ることが重要となる。極端にいうと、構想⇒プラン化⇒実行の流れから、プラン化を抜き去ることである。筆者は「早い段階で事業プランを書くな!」というアドバイスをよくする。机上のプランは企画者にいわゆる「バカの壁」をつくる。早い段階でプラン化すると、書いたものを守ろうという意識から、所詮空想ごとのプランを「本物」と錯覚して虚構を積み上げる結果になる。その結果、アイディアをどんどん捨て、入れ替えて改良を重ねる機会が消え、創造が阻害されてしまう。

 

筆者は、この実験主義的な動きを従来のPlan-Do-Seeではなく、Do-Learn-Prototypeへの変換と呼んでいる(図表5)。リスクを許容しにくい企業システムのなかで、行動主義をいかに定着させていくか、そのための問題解決者としてのあり方についても、本連載のなかで触れていきたいと考えている。

 

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価値創造の活動を企業に定着させるには -8の字型イノベーション活動-

企業にかかわる人のなかに埋もれている知を取り出し、コンセプト化・プロトタイプ化し、顧客や市場にぶつけて試す。この動きを、部門の壁を越えて実践していくプロセスを企業の定常的な活動として埋め込むことで、埋もれた膨大な知を価値創造につなげられる。これを、チームが社内外の知を行き来しながら知を集め、中心で創造を行うという一連の動きが、8の字の軌道を描くイメージから、この活動を象徴的に「8の字型イノベーション活動」と呼んでいる(図表6)。

 

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この成功には、①エンパワーメント、②プロセスプロトタイピング、③ケイパビリティ(組織的能力)、この3つが有機的にかみ合うことが重要となる。

 

エンパワーメントとは、企業トップが関心と支援のエネルギーを注ぎ続けることである。実は、この創造のプロセスはやっている側は非常にしんどい。組織・部門の壁を超えた協力獲得は非常にストレスがかかる。ましてや直接事業に関係しないインタビューなどは、ほぼ「協力に値しないもの」と処理される。「勝ち馬に乗る」というメンタリティが強い人が大半を占めるなかで、実証されていないアイディアを育てる孤独な作業を乗り越えていくエネルギーを注ぎ続けられるのは企業トップしかいない。根気のいる取り組みを評価し、組織の壁を越える道をつくり、創造を実現する楽しみを啓蒙し続けることは、企業トップにしかできない重要な仕事である。新事業開発が失速する最も大きな原因はトップの関心の低下である。鳴り物入りで立ち上げたが、トップの関心低下や交代により、取り組みが廃墟化しチャレンジした人が孤立することは避けなければならない。

 

トップエネルギーの枯渇ショックに対処するために、8の字のプロセスを実案件で回し、その過程でプロセスを継続的に回るようにするための仕掛けを設計し組み入れていくプロセスプロトタイピングが必要となる。

 

これにより、価値創造のプロセスをワンショットのイベントで終わらせず、企業のなかの定常的な活動として定着させる。
同時に必要なのが、実践的なケイパビリティ構築である。「実践的」とは、「座学」でなく「経験学」であるという意味である。インデプスインタビューや創造的な討議を通じたコンセプトづくり、顧客や社内人材への提案と擦り合わせなど、いずれも人との相互作用のなかで知識を組み立てていく技法であり、リアルなテーマにより実践し習熟しないと身に付かない。

 

エンパワーメント、プロセスプロトタイピング、ケイパビリティの3つが揃って、初めて価値創造の活動は定着する。筆者らの支援プログラムは、この3つをセットで構築することをめざす。仕組みの導入だけでもなく、アイディア提供やスキル指導だけでもない、具体的な案件を回しながら企業トップ・実戦部隊と共にこの動き方全体を定着させることをめざす。
本連載では、ケイパビリティ面を中心に詳説することになるが、並行して上記のエンパワーメントや仕組み化の側面も誌面が許す限り説明をしていきたい。

 
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